ここに、1枚のCDがある。名前は『I am music for』。あなたが今どういう経緯で、この文章を読んでいるのか我々は知る由もないが、この巡り合わせは偶然ではない。なぜなら今から紹介する音楽が、あなたと出会うことをずっと待っていたからだ。
〈どうして伝わらないんだろう〉と呟くように歌い出した声に、「ん?何だって?」と一度耳を澄ましたら、そこはもう彼らの手の中。徐々に増えていく音数によってサウンドの求心力は高まり、話し掛けるように歌われる言葉から耳を離せなくなったあなたは、いつしかすっかりこの音楽に聴き入ってしまうだろう。素直な音並びのメロディーと耳をくすぐるギターリフが爽やかなリード曲M1「I am music」が、待ちかねたようにあなたの耳へ滑り込む。
M2「冒険譚」では、ラヴェルやドビュッシーを思わせるような揺らめくピアノの音色で幕を開ける。元来のバンドサウンドとクラシックの要素が、ぶつかり合わずに共存し、絡み合うことで多角的に広がる音の響きが絶妙だ。
そんな風に惹きつけておいて、「ゆとりばんざいー、ゆとりばんざいー、ゆとりばんざいー」というあっけらかんとしたベルトーンコーラスに、思わずずっこけてしまうのはM3「ゆとりばんざい」。ハッピー感炸裂のポップな曲調だが、その歌詞は実に秀逸。いわゆる”ゆとり教育”を受けた年代であるthe unknown forecastが、彼らのことを”ゆとり世代”と呼ぶ世間に対し、思いっきり開き直って物申す。〈「円周率3で計算してたんでしょ?」って誰もしてないよ〉。「ほんとそれ!」と思った同志諸君はもちろんのこと、「え、違うの!?」と言いそうになった”非ゆとり世代”な方々にも是非聴いてほしい一曲だ。また、続くM4「YUTORI say die」でも”ゆとり世代”をテーマに、採用面接に準えた歌詞で、ゆとり世代が直面している嘆かわしき現実に堪らず叫び声を上げる。
独自のゆとりワールドが展開され、あっけにとられていたところに登場するM5「Sunny?」は、打って変わって切ないナンバー。のびやかに漂うサウンドからは、ぽたりと落ちた淡い絵の具が滲んでぼやけていくようなイメージを抱き、たっぷりと空気を含んだ幡野友暉(ヴォーカル/ギター)の機微な歌い回しに胸が締め付けられる。
そして、さなぎから蝶となって羽ばたく様子を、人の旅立ちと重ねて描写した最終曲M6「さなぎの唄」は、春の訪れを待つ今の季節によく似合う。”出会いと別れ”というのは普遍的なテーマだが、同曲ではこの春大学卒業を控えた”今”の彼らだからこそ歌にできたであろう言葉がとても印象的だ。〈「もう いかなくちゃいけないんだなあ」〉と、不安を抱きながらも〈再会を迎えにどこまでも 羽ばたく〉、〈二度とは会えないとしても 羽ばたく〉と力強く歌い切りCDは止まる。
爽快なアップチューンや見事なサウンドメイクに聴き惚れる楽曲もあり、突如ポップネスに振り切れたかと思えば、染み入るような歌声で魅了する。各曲の振り幅にいちいち驚かされる様は、まさに「the unknown forecast=予測不能」だ。色も形も表情も全く違う6曲を収録し、どんな気分でも聴きたい曲が見つかる万能な1枚に仕上がった『I am music for』。そんなアルバムは、あなたに再生ボタンを押されるときを今も待っている。
1. I am music
2. 冒険譚
3. ゆとりばんざい!
4. YUTORI say die
5. Sunny?
6. さなぎの唄
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